イギリスで始めたこと

お花売り場に移って１年４ヶ月経ち顔見知りのお客さんも増えた。
毎週決まった花を買いに来るお客さんもいてなんとか希望に添えるようにしている。
ご主人の墓前に供える花を買いに来る老婦人。
反対に亡くなった奥さんのために花を買いに来る男性。

毎週金曜日にフェアトレードの黄色いバラを買いに来る中年のご婦人がいる。
先週の金曜日も私が休憩から売り場に戻るとその女性が花売り場にいた。
彼女の顔を見て「フェアトレードの黄色のバラですね」と声をかけると
「そうなの、まだあるかしら」と言った。
売り場に並べていた物は売れたようだったので
「倉庫から持ってきますからちょっとお待ちくださいね」と言うと
「いつもすまないわね」と言われた。
お目当ての黄色いバラを差し出すと喜んで受け取ってくれた。
「いつも手のかかるお願いしてごめんなさいね」と言われたので
いえ、そんなことありませんよと言うと
「墓前に飾るのよ」と言って少し沈黙し「息子のお墓に」と言われた。
一瞬びっくりして彼女の顔を見ると目に涙をためていた。
なんと言っていいかわからずすぐには言葉が出てこなかった。
「それじゃありがとう」と言って何歩か歩き出した彼女の後姿に向かって
気にせずいつでも言ってくださいと声をかけた。
お客さんは振り返り悲しげな顔で微笑んでくれた。

いつ息子さんを亡くされたのかはわからないが
私が移動してから１年以上も黄色いバラを毎週買いに来ている。
彼女の涙を見て何年経とうとその悲しみが癒えることはないのだと思った。
そして私にできることは金曜日に必ず黄色のバラを
彼女が手に入れられるようにすることだと思った。

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