イギリスで始めたこと

２週間の休暇を終えて職場に戻ったときジーンが私の家族はどうだったか訊ねてくれた。
楽しかったけど年老いた両親、特に入院中の母を残してくるのは辛かったと答えた。
ひとしきり自分の家族の話をしたのでジーンのご両親は健在なのかと訊ねたら
お母様は昨年亡くなったと言った。
あ、まずいことを訊いてしまったと思っているとジーンが
「でもね、母が息を引き取るときに側にいられたから良かったの」と言った。
Kemmiは家族が離れた所にいるから辛いわよねと言ってくれた。
そう言われて一昨年妹を失ったことを話した。
急性心不全で突然逝ってしまったと。

するとジーンは彼女の悲しい話を語りだした。
実はジーンは昨年三人の大切な人を失ったそうだ。
お母様、一つ違いの妹さん、そして恋人。
お母様は病気だったが妹さんは妹さんの夫に浴槽に沈められ溺死させられたそうだ。
想像もできない話に驚いてしまい言葉が見つからなかった。
恋人は２年前に癌の治療を受け、定期検査で何もなければ
癌の治療から開放されるはずだったが肝臓に転移していたのが見つかって
わずか６ヵ月後に帰らぬ人となったそうだ。
恋人のことを話していたジーンの目に涙が光った。
思わず私ももらい泣きをしてしまった。

ジーンは１年のうちに３人もの大切な人を亡くし辛い思い出がいっぱいの家を出て
自分の子供たちが住んでいるこの町へ戻ってきたそうだ。
黙って家にいると頭がおかしくなりそうなので働いているの。
自分の頭の中を忙しくさせて一瞬でも悲しみを忘れるためにとジーンは言った。
ジーンにそんな悲惨なことが起こっていたとは想像もできなかった。
まして彼女の気持ちなどわかってあげることなどできないと思った。

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